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2016.03.28 (Mon)

黒い瞳 20

それからは愛し合うときは薬を服用し、
とめどもない快楽の波に溺れた。

心で拒絶しても体が薬を求める。
やがて、SEXをするしないに関わらず、
日常生活においても薬がほしくなってきた。

薬を飲めば疲れが取れる。
いや、疲れが麻痺するのだ。
なんとすばらしい薬だろう。

「順平・・・あの薬、ほんとは媚薬なんかじゃないんでしょ?」

「へへへ・・・気付いたかい?
あれはいわゆるドラッグってやつだ。
あいつの虜になったらもう止められないぜ」

ドラッグ?麻薬なの?
そう問い詰めると、麻薬じゃないけど、
まあ似たようなもんだと順平がニヤニヤしながら答えた。

なんということだ!警官の妻だった自分がドラッグの中毒に・・・。

順平・・・ひどい!そんなものに私を溺れさすなんて!
もう薬は止めよう。
中毒反応はつらいかもしれないが、絶対に乗り越えなければ。


しかし、その決意は1日としてもたなかった・・・

欲しい!薬が欲しい!
薬!薬!薬!!!

「順平!薬!!薬をちょうだい!!」

「あれさあ、けっこう高いんだよねえ」

「いくらなの!いくらでもいい、欲しいのよ!」

やがて、生活費のほとんどが、ドラッグを購入する金額に化けた。

そして、由紀子の養育費にと
貯蓄しておいた健太と義父母の生命保険の返済金にまで
手をつけ始めるようになってしまった。

とにかく、ドラッグが欲しかった。
他のことは何も考えられなくなってきていた。


やがて、フロアに大量の蟻が這うようになった。

もちろんドラッグが見せる幻覚症状なのだが、
淳子にはそれがはっきりと見えるのだ。

蟻が蠢くのが気になり、1日中、掃除機をかける日もあった。

由紀子の育児も疎かになり始めた。
由紀子の発育も悪くなり、やせ細って来だした。

順平は、狂ったように掃除を続ける淳子と、
衰弱していく由紀子を見てはケラケラと笑った。



夜になれば、二人は獣のようなSEXをした。
ドラッグの服用は1錠から2錠、2錠から3錠へと次第に増えていった。

淳子の部屋でSEXをしても、由紀子は泣かなくなった。
泣く力もないほど衰弱しだしたのだ。

順平に跨り、淳子は一心不乱に腰をグラインドさせた。
「もっとよ!もっと下から突き上げなさいよ!」

「はあ・・・はあ・・・・こうかい?」
順平は白目をむきながら、淳子の要望に応えた。

しかしやがて「うううう・・・」と呻き声を発したかと思うと、
順平は動かなくなり、男性自身が一気に萎んだ。

「順平!なにしてんのよ!早く勃たせなさいよ!」
淳子の罵声にも応えず、
順平は目をカッと見開き、口から泡を吹いていた。

「順平?」

順平は呼吸さえしていなかった。
ドラッグの多乗摂取による心不全で命を落としたのだった。

「いやあああ~~っ!!」
淳子はパニックに陥った。
どうすればいいの?どうすればいいの?

その時、衰弱しきっている由紀子が
力を振り絞ったように泣き始めた。
『うるさい!うるさい!うるさい!!!』
淳子は、ふいに由紀子の大きな黒い瞳が恐ろしくなった。

「なによ、その目は!そう、お腹が減ったの!!
それならミルクをあげるわ!食べなさいよ!!」
そう言って、古くなったミルクの粉を由紀子の口へ流し込んだ。

「食べなさいよ!さあ、食べなさいよ!」
ミルクの粉をどんどん由紀子の口に流し込み、
顔中が粉だらけになった。

由紀子はすでに息絶えていた。
しかし、その黒い瞳が淳子をしっかりと見据えていた・・・


~エピローグ~

淳子は静かに目を覚ました・・・
白い天井、白い壁・・・
懺悔の思いで目から涙が溢れる。

「由紀子・・・」
愛する健太の忘れ形見をこの手で・・・・


淳子は病院の隔離病棟に収監されていた。
体は拘束衣で自由を奪われていた。

順平のように命を落とせばよかったのに・・・
この心の傷は一生消えることはないだろう。


カツ、カツ、カツ・・・

数人の靴音と、杖を着く音がドアに近づいてくる。


キィ~という金属音とともにドアが開く。
担当医が入室してきて話し始めた。

「若林さん、あなたの身元引受人が名乗り出てくれましたよ。
これからは全快を目指してがんばりましょうね。」

さあ、どうぞ。という担当医の声に促されて、
杖を着いた男が入室してきた。

男は「淳子、探したよ・・・」
そう言ってニヤリと笑った。

淳子は男の声を聞き、目を見開いて男を見た。



そこには、こめかみに傷跡を残した父が、
不気味な笑顔で立っていた・・・・







。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。

あとがき

「黒い瞳」いかがでしたでしょうか

やや猟奇的要素の含んだ作品となってしまいました
エロよりも幸せに縁遠い女の半生モノを思って書き始めたものの
アンハッピーな作品になってしまいました

08:29  |  黒い瞳  |  Trackback(0)  |  Comment(6)

Comment

こんばんわ

タイムリーなテーマですね。
ドキュメンタリータッチなのがいいですね。途中でストーリを先追いして読みたくなります。見事です。w
坂本瑞穂 |  2016.03.28(月) 21:43 | URL |  【編集】

お疲れ様♪

今までに無い、ストーリーでしたね。

やっぱし、最後はアイツの出番だったのね(^^;
しかし・・・波乱の人生だね。
大事な天使も、飛んでちゃったし・・・
男運無い淳子でした。。。(T-T)

影依 |  2016.03.28(月) 22:28 | URL |  【編集】

Re: 坂本瑞穂さん、コメントありがとうございます

> タイムリーなテーマですね。

たまたま監禁事件が解決しましたね
こういうお話は小説の中だけにしてもらいたいものです
他人の人生を踏みにじる行為は絶対にダメですよね

ほーくん |  2016.03.29(火) 09:09 | URL |  【編集】

Re: 影依さん コメントありがとうございます

> 今までに無い、ストーリーでしたね。

私の初期のころの作品です ><
すこし加筆、修正しましたが
後半は邪魔くさくなってそのまま掲載してしまいました (笑)

> やっぱし、最後はアイツの出番だったのね(^^;

はい、堂々巡りの半生を描きたかったのですが
なんだか最終話に無理やり持っていった感がアリアリですね 苦笑
ほーくん |  2016.03.29(火) 09:14 | URL |  【編集】

 わたしには、重すぎでした。リアのドタバタも重なって、なかなか読み進めなくてコメが遅くなりました。

 でも、何とか最後まで読んだので、参加賞くらいくださいね。
ひぃ |  2017.11.23(木) 23:21 | URL |  【編集】

Re: ひぃ、コメントありがとうね

このお話しはちょいと異色だから…
一人の女性の半生記を書きたかったんだけど
途中で変な方向に行っちゃったので…
気取ってプロローグなんて書いたからラストでつじつまを合わすのにアタフタしちゃいました

ほーくん |  2017.11.24(金) 19:34 | URL |  【編集】

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