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2014.11.10 (Mon)

禁断の自由形 1

「吉本先生、ご相談があるんですけど・・・」
職員会議を終えて帰宅準備をしていると、
隣の席に座っている桜川教諭から声をかけられた。

「いいですよ、なんでしょう?」
さあ、話を聞きますよとばかりに桜川教諭に向き直った。

「いえ、ここではなんですから少し場所を変えて・・・」
まわりを気にして小声でバツが悪そうに顔をしかめた。

今夜は早めに帰宅して先日に実施した抜き打ち試験の採点をつけたかったのだが、
既婚者とはいえ、校内一の美人教師のお願いならば無下に断るわけにはいかなかった。
いや、それどころか美人の桜川教諭と二人っきりで話せるチャンスなんて
早々あるわけではないので吉本の顔は自然とニヤついた。

吉本は都内の私立女子高の化学を教えている教師である。
まだ教師になって数年で一見では学生だと言っても通用する若々しさだった。
桜川も同じ女子高の教師で保健体育を教えていた。
学生時代は水泳の選手として、都内ではかなりの知名度だった。
同じく学生時代に水泳部だった吉本にしてみれば、
憧れだった有名選手と同じ職場で机を並べることができたのが夢のようだった。

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そんな憧れの彼女が秘密事の相談?
駅前の喫茶店で向かい合わせに座ると、
いやがうえにも、彼女を女として意識せざるを得なかった。

「えっと・・・・ご相談ってのは」
話しかけた吉本を桜川はコホンと咳払いして
ちょっと待ってとばかりに顔をしかめた。
その直後「ご注文は?」とウエイトレスが二人の席に近づいてきた。
そっか、そっか・・・あまり聞かれたくない話なのだなと吉本は理解した。
いやがうえにも男と女の話ではないかという気持ちを高らかせた。
「コーヒーを二つ・・・」それでいいですよね?という視線を桜川に送ると
ええ、それでいいわとコクリとうなづいた。

コーヒーが運ばれてきて落ち着くと桜川がその口を開いた。
「君さあ」
き、君?!完全に後輩と見下した口調に吉本は驚いた。
「君、学生時代に水泳をしてたよね」
桜川のように名の通った選手ではなかったが、
それでもそこそこの成績を残していた。
「ええ、まあ・・・」
そういえば桜川は勤務している我が校の水泳部の顧問をしていたことを
吉本は思い出した。

「今度の水泳部の夏合宿なんだけどね・・・・
君、夏休みは暇かしら?」
これは夏合宿に一緒に行ってくれないかという誘いなのではないか?
「は、はい!暇です!」
その言葉に桜川はニッコリと微笑んだ。

「良かったわ~、じゃあ、夏合宿お願いしていいかしら」

「はい!一緒に行かせていただきます!」
桜川は既婚者だが、このような美人と学校以外で過ごせるというのは
喜ばしいことだと吉本は喜んだ。

「助かるわあ~、私さあ、妊娠しちゃったのよ
今、3ヶ月なんだけどね、マイクロバスで山道に揺られるってのは
どうもまずいのよねえ~」

「ちょ、ちょっと待ってくださいよ・・・
夏合宿、顧問代理として俺一人で行けと言うんですか?」

「そうよ、だって我が校で水泳の経験者といったら
君しかいないんですもの
大丈夫よ、みんな言うことを聞くいい子たちばかりだから
半年前に、青少年センターに頼み込んで日程を組んでもらっただけに
今更中止にしますって言えなくてさあ~」
顧問代理が決まったとなって安心したのか
桜川はおいしそうにコーヒーを飲んだ。

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