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2016.03.16 (Wed)

黒い瞳 13

~淳子18歳~

 

淳子は鏡台に向かって化粧の最後の仕上げに紅をひく。

もうすぐ、日が暮れる。
夜が淳子の出勤時間だ。



父の家を飛び出した後、淳子はとにかく逃げた。

翌朝の新聞を買いあさり、
傷害事件や殺人事件の記事を探したが父の事は載っていなかった。
案外と軽症だったのかもしれない。
それに父は鬼畜の行為がばれるのを恐れ、
被害届を出さなかったのだろう。

しかしながら、なににもまして、
淳子は生きていくために職を手に入れなければならなかった。

淳子が選んだのは夜の仕事だった。
実入りのよさに惹かれたのはいうまでもなかった。

15歳という年齢は18歳でごまかし通した。
化粧をすれば大人びた顔立ちと体つきで
すんなりと面接にパスした。

夜の仕事といっても風俗関係でなくお水の方を選んだ。

『カエルの子はカエルね』
母と同じ仕事についた自分を淳子はそう思った。
この仕事について3年。
今や面接時に嘘をついた年齢に追いついてしまった。

自分でも天職ではないかと思えるほど、
お水の仕事には早くからなじめた。

今や、お店ではナンバー1の売れっ子ホステスだ。
900.jpeg

お給料もトントン拍子に増え、
賃貸ではあるがマンションに住めるようにもなった。

ある夜、ご新規さんのお客さまの接客をすることになった。
席に着き、お客様の顔を見て淳子は悲鳴を出しそうになった。

なんと、母が結婚詐欺の被害にあったとき、
犯人に手錠をかけた若い方の刑事だったからだ。

「あれっ?君どこかで前に一度会ったかな?」
刑事は淳子を覚えていた。
いや、正確には母を覚えていたのだ。
それほど、淳子は母の生き写しであったのだ。

「そうかい、あの時の娘さんかい。
それでお母さんはお元気に暮らしているかい?」

あれから必死になって生きてきたこと、
そして母の死などをかいつまんで話した。

「犯人を検挙したものの、
ろくに相談にも乗ってやれず申し訳ないことをした」
そういって刑事は頭を下げた。

「ちょっと、やめてくださいよ。
さあ、頭をおあげください。
こんなとこ、ママさんに見られたら怒られちゃうわ」

「えっ?あっ、そうか。それはすまん」
そういって、また頭を下げた。

「もう、いやだわ。刑事さんったら。うふふ」

「その刑事さんというのはやめてくれないか」

刑事は若林健太と名乗った。
淳子の家で初めて出会ったのが25歳で、
現在37歳だと教えてくれた。

話をするうちに若林はこの度、仕事上で失敗をしてしまい、
落ち込む気持ちを吹っ切る為に飲みにきたのだと言った。

「しかし、この店を選んで正解だったよ。あなたのような奇麗な人に出会えたし」
そう言って、水割りをおいしそうに飲んだ。

おかわりを作りながら、綾子と言います。どうぞ、ご贔屓に。
そう笑顔で言って、グラスをテーブルに置いた。
img_0.jpg

「それは、源氏名でしょう?本名は?」
若林は執拗に淳子の本名を知りたがった。

だ~め。教えない。
もっと、もっとお店に顔をだしてくれたら教えるわ。
淳子はそう言って営業スマイルではなく、
なぜかこの男には自然な笑みで接していた。



若林は非番の日には必ず店に顔をだした。

ついに淳子は根負けしてしまった。
「私の本名は淳子。」

「淳子かあ・・・いい名だ。
どうだろう、本名を教えてくれた記念日として、
この後、寿司でもつまみにいかないかい」

えっ?アフターのお誘い?

「こんな、おじさんが相手だといやかな?」

「いいえ、とんでもない。お付き合いさせていただきますわ」
淳子は思いがけず胸がときめいた。

アフターは何度も経験してる。
指名してくれて、お金を落としてくれる客には体も許した。
そう、何人もの男が私を抱いた。

そうやって淳子はトップになったのだから。

だが今回は違う。胸がときめくのだ。
若林のバリトンの声・・・。
均整のとれた引き締まった体躯・・・。
刑事らしからぬ甘いマスク・・・。
淳子は若林に惚れてしまったのかもしれない。

淳子はその夜、若林に抱かれた。
若林は淳子をやさしく扱ってくれた。
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今までアフターをしたあと、
男に抱かれることはあっても心は許さなかった。
ビジネスとして割り切った。

だが、若林と共にした一夜は別だった。
すばらしい一夜であった。

淳子は、若林に惚れていることを確信した。
その後もアフターを重ね、何度も愛し合った。
それはアフターというよりも、深夜のデートといっても過言ではなかった。

20:10  |  黒い瞳  |  Trackback(0)  |  Comment(2)

Comment

前回の・・・
>畳の目を数えたり・・・
 ↑コレ爆笑(^□^*)

んで・・・
今回の刑事さん・・・
また、ヤバイ雰囲気が匂ってきたんやけどぉ~~
淳子ちゃん、大丈夫かしらン(^^;
アタシに母性が目覚めてるぞぉ~(爆)
影依 |  2016.03.16(水) 21:01 | URL |  【編集】

Re: 影依さん コメントありがとうございます

> 前回の・・・
> >畳の目を数えたり・・・
>  ↑コレ爆笑(^□^*)

男はね~・・・けっこう大変なんすよ~ 泣
早かったとき「いいのよ早くても、すごく感じたし」なあ~んて言われると
心臓にクイを打たれるごとくグサってくるんだからね~

> また、ヤバイ雰囲気が匂ってきたんやけどぉ~~

いやいや、そんなに裏を読まなくてもいいじゃん(笑)
ほーくん |  2016.03.17(木) 19:38 | URL |  【編集】

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