2016.03.20 (Sun)
黒い瞳 16
「もうすぐよ。がんばって!」
産婦人科医が声をかける。
「ああーっ!くうーっ!!」
淳子は歯を食いしばり、力を振り絞った。
ズルッとした衝撃とともに・・・
「おぎゃああ・・おぎゃあああ!!」
けたたましい産声が分娩室に響いた。
「おめでとう!かわいい女の子よ!」
女医が、へその緒を切り、
きれいに体を拭った我が子を胸元に抱かせてくれた。
「始めまして、由紀子・・・私がママよ。」
我が子をいとしく見つめながら心の中で健太に報告する。
『健太・・・残念でした。女の子よ』
一方、犯行現場ではSATが犯人を取り押さえ、
事件は一気に終息した。
『俺は撃たれたのか?』
何人もの足音が聞こえる。
「被疑者!確保!!・・・人質無事救出!!」
捜査員の声がする。
『よかった。人質は無事のようだ・・・』
「1名負傷!!!タンカ!タンカ!早くしろ!!早く!!」
『俺のことか?やはり俺は撃たれたのか?』
体が急に冷たくなる。
『寒い・・・』
何人もの手が若林の体に伸びる。
ベルトを緩められ、すばやくタンカに乗せられる。
『寒い・・・俺は・・・俺は・・・死ぬのか・・・?』
体の感覚が無くなる。
『淳子・・・どこだ・・・淳子・・・会いたい・・・
淳子・・・そしてまだ見ぬ我が子・・・
ゴメン・・・俺・・・・先に逝くわ・・・・』
健太は深い闇に包まれた・・・・
淳子は隣の小さなベッドで、
すやすやと眠っている由紀子を
飽きることなく愛しそうな眼差しでみつめていた。
母も私を産んだときに、
こうしてみつめてくれていたのかしら。
そう思うとなんだか心が温かくなった。
『早く健太来ないかしら・・・
女の子と知ったそのときの顔が見ものだわ。うふふ・・』
健太には署の方へ義母が連絡してくれているはず・・・
まだ来ないところをみると、事件の解決が遅れているのかもしれない。
そう思う反面、なんだか胸騒ぎがする・・
由紀子を産み落とした瞬間、
『淳子・・・ゴメン・・』という健太の声が聞こえた気がしたからだ。
出産の一報を聞き、駆けつけてくれた義父の顔色も悪かった。
『おめでとう・・かわいい孫を産んでくれて本当にありがとう・・
健太も喜んでいるはずだ・・・』
そういって涙ぐんだ義父。
あの涙は歓喜のあまり流した涙ではなかった気がする。
まるで悲しみの涙・・・
「ばかね淳子、なに変なこと考えてるの」
声に出し自分で自分の胸騒ぎを打ち消してみた。
産婦人科医が声をかける。
「ああーっ!くうーっ!!」
淳子は歯を食いしばり、力を振り絞った。
ズルッとした衝撃とともに・・・
「おぎゃああ・・おぎゃあああ!!」
けたたましい産声が分娩室に響いた。
「おめでとう!かわいい女の子よ!」
女医が、へその緒を切り、
きれいに体を拭った我が子を胸元に抱かせてくれた。
「始めまして、由紀子・・・私がママよ。」
我が子をいとしく見つめながら心の中で健太に報告する。
『健太・・・残念でした。女の子よ』
一方、犯行現場ではSATが犯人を取り押さえ、
事件は一気に終息した。
『俺は撃たれたのか?』
何人もの足音が聞こえる。
「被疑者!確保!!・・・人質無事救出!!」
捜査員の声がする。
『よかった。人質は無事のようだ・・・』
「1名負傷!!!タンカ!タンカ!早くしろ!!早く!!」
『俺のことか?やはり俺は撃たれたのか?』
体が急に冷たくなる。
『寒い・・・』
何人もの手が若林の体に伸びる。
ベルトを緩められ、すばやくタンカに乗せられる。
『寒い・・・俺は・・・俺は・・・死ぬのか・・・?』
体の感覚が無くなる。
『淳子・・・どこだ・・・淳子・・・会いたい・・・
淳子・・・そしてまだ見ぬ我が子・・・
ゴメン・・・俺・・・・先に逝くわ・・・・』
健太は深い闇に包まれた・・・・
淳子は隣の小さなベッドで、
すやすやと眠っている由紀子を
飽きることなく愛しそうな眼差しでみつめていた。
母も私を産んだときに、
こうしてみつめてくれていたのかしら。
そう思うとなんだか心が温かくなった。
『早く健太来ないかしら・・・
女の子と知ったそのときの顔が見ものだわ。うふふ・・』
健太には署の方へ義母が連絡してくれているはず・・・
まだ来ないところをみると、事件の解決が遅れているのかもしれない。
そう思う反面、なんだか胸騒ぎがする・・
由紀子を産み落とした瞬間、
『淳子・・・ゴメン・・』という健太の声が聞こえた気がしたからだ。
出産の一報を聞き、駆けつけてくれた義父の顔色も悪かった。
『おめでとう・・かわいい孫を産んでくれて本当にありがとう・・
健太も喜んでいるはずだ・・・』
そういって涙ぐんだ義父。
あの涙は歓喜のあまり流した涙ではなかった気がする。
まるで悲しみの涙・・・
「ばかね淳子、なに変なこと考えてるの」
声に出し自分で自分の胸騒ぎを打ち消してみた。
2016.03.25 (Fri)
黒い瞳 17
翌日、面会時間の始まりにあわせるかのようにドアをノックする音がした。
「はい?・・どうぞ」
「失礼します」と言って入室してきたのは、
制服姿の健太の上司である春日警部ともう1名、50歳ぐらいの年輩の男だった。
春日は年輩の男性を署長の大山だと紹介してくれた。
上司と署長が?一体なぜ?それも制服姿で・・・
「署長の大山と申します。
昨夜から自宅とあなたの携帯の方へ何度もご連絡をさせていただいていたのですが・・・
署の総務に聞けば、こちらでお子様をご出産されていたということで。
若林警部のご両親には昨夜すでに、」
「ちょっと待ってください。」
淳子は大山の言葉をさえぎるように言った。
「若林の階級は巡査部長のはず・・・さきほど警部とおっしゃいましたか?・・・」
淳子は動悸が早まるのを感じた。
巡査部長が警部?2階級上の階級ではないか。
それが意味するもの・・それは・・・
「若林は・・・」
春日が大山に代わって話し始めた。
「若林は昨日、人質立てこもりの被疑者の発砲した銃弾を被弾し・・・
至急、病院のほうへ搬送し手当をしたのですが、
手当の甲斐なく・・・殉職いたしました。」
発砲された?被弾した?殉職?
あなたたち、なにいってんのよ?
言葉が理解できない・・・
部屋の景色がグルグル回り始めた。
そうして淳子は気を失った。
点滴の針の痛みで淳子は意識がもどった。
義父母が心配そうに淳子の顔を覗き込んでくれていた。
「淳子さん、気がついた?
産後で疲れているのだから健太の事を話すのは
もう少し時間を置いてからとお願いしたんだけど・・・」
義母が淳子の手をしっかりと握ってくれた。
「じゃあ・・やっぱり健太は・・・」
現実を受け止め、淳子は号泣した。
それは母の死に心の中で流した涙の
何倍もの悲しみの涙だった。
健太が警察官である限り、
こういうことはありうると覚悟はできているつもりだった。
でもまさか現実になろうとは・・・
「つらい話なんだが・・・」
義父が健太の葬儀のことについて話はじめた。
淳子の体調を考え、
警察葬は1週間後にしていただいてはどうだろうということ。
その間、遺体は冷凍安置しようと思うということ。
「ほんとうは、そんな冷たい箱の中に何日も寝かせるのは忍びないんじゃ・・・
密葬して早く荼毘にしてあげるのがいいのかもしれん・・・
だが、あいつに一目、娘を対面させてやりたいんじゃ。
医者が言うには、生まれてすぐに外出させるのは許可できんと言いよる・・・」
そう言って義父は歯を食いしばって泣いた。
一週間後、若林健太警部の葬儀が執り行われた。
葬儀に先立ち、淳子は由紀子を抱いて
遺体安置所の冷凍庫からだされた健太と対面した。
由紀子を大勢の人たちの中へ連れ出すのは
感染等の問題から控えるようにきつく言われていたからだ。
健太の遺体は警察の制服を着せられていた。
まるで静かにねむっているようだった。
「健太・・・娘の由紀子よ・・・」
女の子だと知ったらどんな顔をしただろう・・・・
父親が口を揃えて言うように、
この子はどこにも嫁にださん。そう言って壊れ物を抱くように、
ぎこちない手つきで抱いただろうか・・・
「あんなに楽しみにしてたのに・・・バカよ、あんたは・・・」
そう言って遺体にそっとキスをした。
以前のように甘い吐息はなく、かすかにホルマリン臭がした。
「ほら、由紀子・・あなたのパパよ」
父の死を知ったかのように由紀子が火がついたように泣き出した。
「あなた・・・由紀子が泣いているわ・・・
あやしてあげてちょうだい・・・あなた・・あなた・・・」
警察葬はしめやかに執り行われた。
署長の弔辞は、やたら長く、どうでもいい内容に思えた。
白い菊の花に飾られた祭壇の中心に、
若林警部の遺影が誇らしげに微笑んでいた。
健太の妻として気丈に振舞わなければ・・・
そう思ってみても、さきほど遺体と対面し、
ようやく若林の死を受け入れたばかりの淳子には、あまりにも過酷だった。
涙が止まらなかった。
白いハンカチが、あっという間にグッショリと湿った。
控え室で看護婦さんに抱かれている由紀子の鳴き声が会場に聞こえると、
婦警さんたちが一斉にむせび泣きはじめた。
焼香を済ませた順に警官たちは
見送りの整列のために会場を出て行った。
出棺の準備の前に、最後のお別れにと棺に花を手向けた瞬間に、
それまで気丈に振舞っていた義父母の目から大粒の涙が溢れ出した。
淳子は健太との出会いから今までのことが
走馬灯のように淳子の脳裏を過ぎ去り、
人目をはばからず遺体にすがりついて泣いた。
パア~~ン
霊柩車が出棺の合図であるクラクションを鳴らす。
「若林警部に敬礼!!」
署長の掛け声と共に、整列した警官たちが一斉に敬礼する。
その敬礼の列は、長くどこまでも続いているかのようだった。
「はい?・・どうぞ」
「失礼します」と言って入室してきたのは、
制服姿の健太の上司である春日警部ともう1名、50歳ぐらいの年輩の男だった。
春日は年輩の男性を署長の大山だと紹介してくれた。
上司と署長が?一体なぜ?それも制服姿で・・・
「署長の大山と申します。
昨夜から自宅とあなたの携帯の方へ何度もご連絡をさせていただいていたのですが・・・
署の総務に聞けば、こちらでお子様をご出産されていたということで。
若林警部のご両親には昨夜すでに、」
「ちょっと待ってください。」
淳子は大山の言葉をさえぎるように言った。
「若林の階級は巡査部長のはず・・・さきほど警部とおっしゃいましたか?・・・」
淳子は動悸が早まるのを感じた。
巡査部長が警部?2階級上の階級ではないか。
それが意味するもの・・それは・・・
「若林は・・・」
春日が大山に代わって話し始めた。
「若林は昨日、人質立てこもりの被疑者の発砲した銃弾を被弾し・・・
至急、病院のほうへ搬送し手当をしたのですが、
手当の甲斐なく・・・殉職いたしました。」
発砲された?被弾した?殉職?
あなたたち、なにいってんのよ?
言葉が理解できない・・・
部屋の景色がグルグル回り始めた。
そうして淳子は気を失った。
点滴の針の痛みで淳子は意識がもどった。
義父母が心配そうに淳子の顔を覗き込んでくれていた。
「淳子さん、気がついた?
産後で疲れているのだから健太の事を話すのは
もう少し時間を置いてからとお願いしたんだけど・・・」
義母が淳子の手をしっかりと握ってくれた。
「じゃあ・・やっぱり健太は・・・」
現実を受け止め、淳子は号泣した。
それは母の死に心の中で流した涙の
何倍もの悲しみの涙だった。
健太が警察官である限り、
こういうことはありうると覚悟はできているつもりだった。
でもまさか現実になろうとは・・・
「つらい話なんだが・・・」
義父が健太の葬儀のことについて話はじめた。
淳子の体調を考え、
警察葬は1週間後にしていただいてはどうだろうということ。
その間、遺体は冷凍安置しようと思うということ。
「ほんとうは、そんな冷たい箱の中に何日も寝かせるのは忍びないんじゃ・・・
密葬して早く荼毘にしてあげるのがいいのかもしれん・・・
だが、あいつに一目、娘を対面させてやりたいんじゃ。
医者が言うには、生まれてすぐに外出させるのは許可できんと言いよる・・・」
そう言って義父は歯を食いしばって泣いた。
一週間後、若林健太警部の葬儀が執り行われた。
葬儀に先立ち、淳子は由紀子を抱いて
遺体安置所の冷凍庫からだされた健太と対面した。
由紀子を大勢の人たちの中へ連れ出すのは
感染等の問題から控えるようにきつく言われていたからだ。
健太の遺体は警察の制服を着せられていた。
まるで静かにねむっているようだった。
「健太・・・娘の由紀子よ・・・」
女の子だと知ったらどんな顔をしただろう・・・・
父親が口を揃えて言うように、
この子はどこにも嫁にださん。そう言って壊れ物を抱くように、
ぎこちない手つきで抱いただろうか・・・
「あんなに楽しみにしてたのに・・・バカよ、あんたは・・・」
そう言って遺体にそっとキスをした。
以前のように甘い吐息はなく、かすかにホルマリン臭がした。
「ほら、由紀子・・あなたのパパよ」
父の死を知ったかのように由紀子が火がついたように泣き出した。
「あなた・・・由紀子が泣いているわ・・・
あやしてあげてちょうだい・・・あなた・・あなた・・・」
警察葬はしめやかに執り行われた。
署長の弔辞は、やたら長く、どうでもいい内容に思えた。
白い菊の花に飾られた祭壇の中心に、
若林警部の遺影が誇らしげに微笑んでいた。
健太の妻として気丈に振舞わなければ・・・
そう思ってみても、さきほど遺体と対面し、
ようやく若林の死を受け入れたばかりの淳子には、あまりにも過酷だった。
涙が止まらなかった。
白いハンカチが、あっという間にグッショリと湿った。
控え室で看護婦さんに抱かれている由紀子の鳴き声が会場に聞こえると、
婦警さんたちが一斉にむせび泣きはじめた。
焼香を済ませた順に警官たちは
見送りの整列のために会場を出て行った。
出棺の準備の前に、最後のお別れにと棺に花を手向けた瞬間に、
それまで気丈に振舞っていた義父母の目から大粒の涙が溢れ出した。
淳子は健太との出会いから今までのことが
走馬灯のように淳子の脳裏を過ぎ去り、
人目をはばからず遺体にすがりついて泣いた。
パア~~ン
霊柩車が出棺の合図であるクラクションを鳴らす。
「若林警部に敬礼!!」
署長の掛け声と共に、整列した警官たちが一斉に敬礼する。
その敬礼の列は、長くどこまでも続いているかのようだった。
2016.03.26 (Sat)
黒い瞳 18
~淳子20歳~
若林がこの世を去って、義父母はすっかり老け込んでしまった。
寝込む日も多くなり、
4ヶ月後に義父が心不全で亡くなり、
さらにその2ヶ月後には後を追うように義母が脳溢血でこの世を去った。
新しい1つの生命の誕生と3つの命の終わり・・・
なんと波乱の1年。
淳子の心の支えは由紀子の笑顔と、
義父母の看護に尽くしてくれた看護師の佐々木順平の存在であった。
佐々木は事あるごとに、
淳子を食事に誘ったり、由紀子の喜ぶおもちゃをプレゼントしたりしてくれた。
淳子は次第に佐々木に思いを寄せていった。
『健太が亡くなり1年にも満たないと言うのに・・・』
淳子は自分の心を否定しようとしたが、
佐々木の澄んだ瞳に見つめられると、頬を染め、ときめいてしまうのだった。
そして、何度目かの食事を共にした時のことであった。
「若林さんは、僕のことを、どう思われていますか?」
唐突に佐々木が淳子に問いかけてきた。
「えっ?」
「僕はあなたに惚れてしまった。
真剣にあなたとお付き合いをしたいと思っています。」
「私は・・・」
健太を忘れることなどできないと思っていた。
しかし、こうして佐々木に口説かれると、
気持ちは20歳の娘に戻ってしまいつつあった。
佐々木は、この食事をしているホテルの1室に部屋を取ってあるという。
淳子と一夜を共にしたいと誘ってきた。
『私はそんなふしだらな女ではありません!』
そう言って席を立とうとしたが、なぜか体が動かなかった。
部屋に入り、すやすやと眠っている由紀子をソファに寝かすと、
佐々木が後ろからそっと抱きしめてきた。
淳子は佐々木に身を委ね、甘い吐息を吐いた。
二人は熱い口づけを交わし、抱き合いながらベッドに崩れ落ちた。
「待って、洋服が皺になっちゃう・・・」
「僕が脱がせてあげるよ」
佐々木は慣れた手つきで、
あっという間に淳子を一糸まとわぬ姿にしてしまった。
『健太・・・ごめんなさい・・・』
一度、火が点いてしまった体は、もう止めることができなかった。
「佐々木さん・・・」
「順平と呼んでほしいな。」
「ああ・・・順平・・・」
順平は今までの男のなかでも群を抜いて上手だった。
前戯だけで何度も絶頂を味わった。
そして、今まさに順平を迎え入れようとしたその時。
今までソファでスヤスヤと眠っていた由紀子が
火の着いたように泣き出した。
あやしに行かなくては・・・
そう思うのだが、
順平の魔術にかかってしまった身体は由紀子よりも順平を求めた。
ママ・・・だめよ!
ママ・・・だめ!!
まるで淳子に警鐘を鳴らすかのように由紀子は泣き続けた。
しかし、順平に貫かれた瞬間、
淳子の耳にはもはや由紀子の声は届かなかった。
久方ぶりの男との交ぐあいに何度も達し、
最後にとてつもない大きな波が淳子を襲った。
いつしか、由紀子は泣き止んでいた。
由紀子はソファの上で淳子を見つめていた。
その大きな黒い瞳は、
まるで淳子を非難しているかのように、じっと淳子を見据えていた。
若林がこの世を去って、義父母はすっかり老け込んでしまった。
寝込む日も多くなり、
4ヶ月後に義父が心不全で亡くなり、
さらにその2ヶ月後には後を追うように義母が脳溢血でこの世を去った。
新しい1つの生命の誕生と3つの命の終わり・・・
なんと波乱の1年。
淳子の心の支えは由紀子の笑顔と、
義父母の看護に尽くしてくれた看護師の佐々木順平の存在であった。
佐々木は事あるごとに、
淳子を食事に誘ったり、由紀子の喜ぶおもちゃをプレゼントしたりしてくれた。
淳子は次第に佐々木に思いを寄せていった。
『健太が亡くなり1年にも満たないと言うのに・・・』
淳子は自分の心を否定しようとしたが、
佐々木の澄んだ瞳に見つめられると、頬を染め、ときめいてしまうのだった。
そして、何度目かの食事を共にした時のことであった。
「若林さんは、僕のことを、どう思われていますか?」
唐突に佐々木が淳子に問いかけてきた。
「えっ?」
「僕はあなたに惚れてしまった。
真剣にあなたとお付き合いをしたいと思っています。」
「私は・・・」
健太を忘れることなどできないと思っていた。
しかし、こうして佐々木に口説かれると、
気持ちは20歳の娘に戻ってしまいつつあった。
佐々木は、この食事をしているホテルの1室に部屋を取ってあるという。
淳子と一夜を共にしたいと誘ってきた。
『私はそんなふしだらな女ではありません!』
そう言って席を立とうとしたが、なぜか体が動かなかった。
部屋に入り、すやすやと眠っている由紀子をソファに寝かすと、
佐々木が後ろからそっと抱きしめてきた。
淳子は佐々木に身を委ね、甘い吐息を吐いた。
二人は熱い口づけを交わし、抱き合いながらベッドに崩れ落ちた。
「待って、洋服が皺になっちゃう・・・」
「僕が脱がせてあげるよ」
佐々木は慣れた手つきで、
あっという間に淳子を一糸まとわぬ姿にしてしまった。
『健太・・・ごめんなさい・・・』
一度、火が点いてしまった体は、もう止めることができなかった。
「佐々木さん・・・」
「順平と呼んでほしいな。」
「ああ・・・順平・・・」
順平は今までの男のなかでも群を抜いて上手だった。
前戯だけで何度も絶頂を味わった。
そして、今まさに順平を迎え入れようとしたその時。
今までソファでスヤスヤと眠っていた由紀子が
火の着いたように泣き出した。
あやしに行かなくては・・・
そう思うのだが、
順平の魔術にかかってしまった身体は由紀子よりも順平を求めた。
ママ・・・だめよ!
ママ・・・だめ!!
まるで淳子に警鐘を鳴らすかのように由紀子は泣き続けた。
しかし、順平に貫かれた瞬間、
淳子の耳にはもはや由紀子の声は届かなかった。
久方ぶりの男との交ぐあいに何度も達し、
最後にとてつもない大きな波が淳子を襲った。
いつしか、由紀子は泣き止んでいた。
由紀子はソファの上で淳子を見つめていた。
その大きな黒い瞳は、
まるで淳子を非難しているかのように、じっと淳子を見据えていた。
2016.03.27 (Sun)
黒い瞳 19
順平は徐々に淳子たちの生活に入り込んできた。
1週間に1度から2度3度と淳子の部屋を訪れ、
今ではすっかり生活を共にするようになってしまった。
しかし、淳子が順平に抱かれようとするたびに
由紀子が泣きやまず、淳子の部屋で愛し合うことはなかった。
順平は執拗に淳子を求めた。
淳子もまた、順平の求めに応じたかった。
順平は由紀子が眠っているときを見計らって淳子を近くのラブホテルに誘った。
「だめよ、いくらスヤスヤ眠っているとはいえ、
いつ目を覚まして泣くかもしれないじゃない」
「大丈夫だよ。ほんの2、3時間じゃないか。
愛を確かめ合いたいんだよ」
順平の懇願に根負けし、
ラブホテルで愛し合ったものの
淳子は由紀子のことが気がかりでまったく燃え上がらなかった。
「なんだい、せっかくの二人の時間だというのに
あの喘ぎ声はなんだよ。まるっきり演技じゃないか。
俺に抱かれるのがイヤだっていうのか」
「そうじゃないの。こういうのはやっぱり無理よ。
由紀子が気がかりで・・・」
「なら、一週間に一日でもいいからベビーシッターを雇えよ。
ゆっくりと俺とお前の時間を作ってくれよ」
あまり気乗りはしなかったが、
ベビーシッターに由紀子を預け、順平と愛し合うと、
由紀子への気がかりの負担がなくなった分、
淳子は心の底から燃え上がることができた。
ある日のこと。
いつものようにラブホテルで二人は愛し合っていた。
順平が一度目の吐精したあと、
おもむろにベッドを抜け出し、脱ぎ捨てたスーツのもとへ行った。
「順平、どうしたの?」
「へへへ・・いいものが手に入ったんだ。」
そう言ってスーツのポケットから、なにやら錠剤を取り出した。
「クラブで遊んでいるときに、
顔見知りの外人から分けてもらったんだ。・・・これ、なんだと思う?」
そう言って、手のひらの錠剤を淳子に見せた。
「さあ?強壮剤かしら?」
「そんなちんけなものじゃないさ。これは媚薬。それもとびっきりの・・・」
「どうするの?それ」
順平はニヤリと笑い、水差しからコップに水を注ぎ、ベッドに戻ってきた。
「二人で楽しもうじゃないか。さあ、飲めよ」
「いやよ」
そう言いつつも、
父に媚薬で責められた時の
あのなんとも言えない快感の深さを思い出して体が疼き始めていた。
「変な薬じゃないからさ。俺も飲むしさ」
そう言って1錠を口に含んだ。
「さあ、飲めよ」
順平が飲んだのなら、
変な薬ではないのだろうと淳子も1錠を口に含んだ。
錠剤を飲んでから数分後・・・・
淳子の瞳孔は著しく絞られていった。
視野が極端に狭くなる。
動悸が激しく、体が熱い。
『なにこれ?媚薬?ほんとに?』
しかし確かに感じやすくなっている。
順平の手が胸を揉む。
その手がまるで何十本の手によって揉まれている感覚。
「へへへ・・・すごいだろ。これ。」
順平の囁きがエコーがかかったように聞こえる。
目眩がする・・・だが、決して不快な目眩ではない。
順平の舌が首筋を舐める。
それがまるで蛇が這っているようだ。
「す、すごい!なに、これ!」
あまりの快感に口から涎が垂れる。
瞳からは涙が、尿道からは小水が漏れる。
おそらく淳子の女性自身も激しく濡れそぼっているであろう。
順平が淳子の中へ入ってくる。
まるでビール瓶を突っ込まれているかのような固さと太さ・・・
『すごい・・すごすぎる・・・こんなの初めて・・・』
1時間後、
ようやく薬効が薄れてきたのだろう、意識が次第に戻ってくる。
「はあ、はあ、はあ・・・・どうだい、すごかったろ?」
「ええ、すごいわ、これ。」
「まだまだたくさんあるからな。」
もういいわよ。その薬、きつすぎるわ。
そう思っているはずなのに
順平に錠剤を見せられると、
口を開き舌を出して薬の催促をしてしまった。
1週間に1度から2度3度と淳子の部屋を訪れ、
今ではすっかり生活を共にするようになってしまった。
しかし、淳子が順平に抱かれようとするたびに
由紀子が泣きやまず、淳子の部屋で愛し合うことはなかった。
順平は執拗に淳子を求めた。
淳子もまた、順平の求めに応じたかった。
順平は由紀子が眠っているときを見計らって淳子を近くのラブホテルに誘った。
「だめよ、いくらスヤスヤ眠っているとはいえ、
いつ目を覚まして泣くかもしれないじゃない」
「大丈夫だよ。ほんの2、3時間じゃないか。
愛を確かめ合いたいんだよ」
順平の懇願に根負けし、
ラブホテルで愛し合ったものの
淳子は由紀子のことが気がかりでまったく燃え上がらなかった。
「なんだい、せっかくの二人の時間だというのに
あの喘ぎ声はなんだよ。まるっきり演技じゃないか。
俺に抱かれるのがイヤだっていうのか」
「そうじゃないの。こういうのはやっぱり無理よ。
由紀子が気がかりで・・・」
「なら、一週間に一日でもいいからベビーシッターを雇えよ。
ゆっくりと俺とお前の時間を作ってくれよ」
あまり気乗りはしなかったが、
ベビーシッターに由紀子を預け、順平と愛し合うと、
由紀子への気がかりの負担がなくなった分、
淳子は心の底から燃え上がることができた。
ある日のこと。
いつものようにラブホテルで二人は愛し合っていた。
順平が一度目の吐精したあと、
おもむろにベッドを抜け出し、脱ぎ捨てたスーツのもとへ行った。
「順平、どうしたの?」
「へへへ・・いいものが手に入ったんだ。」
そう言ってスーツのポケットから、なにやら錠剤を取り出した。
「クラブで遊んでいるときに、
顔見知りの外人から分けてもらったんだ。・・・これ、なんだと思う?」
そう言って、手のひらの錠剤を淳子に見せた。
「さあ?強壮剤かしら?」
「そんなちんけなものじゃないさ。これは媚薬。それもとびっきりの・・・」
「どうするの?それ」
順平はニヤリと笑い、水差しからコップに水を注ぎ、ベッドに戻ってきた。
「二人で楽しもうじゃないか。さあ、飲めよ」
「いやよ」
そう言いつつも、
父に媚薬で責められた時の
あのなんとも言えない快感の深さを思い出して体が疼き始めていた。
「変な薬じゃないからさ。俺も飲むしさ」
そう言って1錠を口に含んだ。
「さあ、飲めよ」
順平が飲んだのなら、
変な薬ではないのだろうと淳子も1錠を口に含んだ。
錠剤を飲んでから数分後・・・・
淳子の瞳孔は著しく絞られていった。
視野が極端に狭くなる。
動悸が激しく、体が熱い。
『なにこれ?媚薬?ほんとに?』
しかし確かに感じやすくなっている。
順平の手が胸を揉む。
その手がまるで何十本の手によって揉まれている感覚。
「へへへ・・・すごいだろ。これ。」
順平の囁きがエコーがかかったように聞こえる。
目眩がする・・・だが、決して不快な目眩ではない。
順平の舌が首筋を舐める。
それがまるで蛇が這っているようだ。
「す、すごい!なに、これ!」
あまりの快感に口から涎が垂れる。
瞳からは涙が、尿道からは小水が漏れる。
おそらく淳子の女性自身も激しく濡れそぼっているであろう。
順平が淳子の中へ入ってくる。
まるでビール瓶を突っ込まれているかのような固さと太さ・・・
『すごい・・すごすぎる・・・こんなの初めて・・・』
1時間後、
ようやく薬効が薄れてきたのだろう、意識が次第に戻ってくる。
「はあ、はあ、はあ・・・・どうだい、すごかったろ?」
「ええ、すごいわ、これ。」
「まだまだたくさんあるからな。」
もういいわよ。その薬、きつすぎるわ。
そう思っているはずなのに
順平に錠剤を見せられると、
口を開き舌を出して薬の催促をしてしまった。
2016.03.28 (Mon)
黒い瞳 20
それからは愛し合うときは薬を服用し、
とめどもない快楽の波に溺れた。
心で拒絶しても体が薬を求める。
やがて、SEXをするしないに関わらず、
日常生活においても薬がほしくなってきた。
薬を飲めば疲れが取れる。
いや、疲れが麻痺するのだ。
なんとすばらしい薬だろう。
「順平・・・あの薬、ほんとは媚薬なんかじゃないんでしょ?」
「へへへ・・・気付いたかい?
あれはいわゆるドラッグってやつだ。
あいつの虜になったらもう止められないぜ」
ドラッグ?麻薬なの?
そう問い詰めると、麻薬じゃないけど、
まあ似たようなもんだと順平がニヤニヤしながら答えた。
なんということだ!警官の妻だった自分がドラッグの中毒に・・・。
順平・・・ひどい!そんなものに私を溺れさすなんて!
もう薬は止めよう。
中毒反応はつらいかもしれないが、絶対に乗り越えなければ。
しかし、その決意は1日としてもたなかった・・・
欲しい!薬が欲しい!
薬!薬!薬!!!
「順平!薬!!薬をちょうだい!!」
「あれさあ、けっこう高いんだよねえ」
「いくらなの!いくらでもいい、欲しいのよ!」
やがて、生活費のほとんどが、ドラッグを購入する金額に化けた。
そして、由紀子の養育費にと
貯蓄しておいた健太と義父母の生命保険の返済金にまで
手をつけ始めるようになってしまった。
とにかく、ドラッグが欲しかった。
他のことは何も考えられなくなってきていた。
やがて、フロアに大量の蟻が這うようになった。
もちろんドラッグが見せる幻覚症状なのだが、
淳子にはそれがはっきりと見えるのだ。
蟻が蠢くのが気になり、1日中、掃除機をかける日もあった。
由紀子の育児も疎かになり始めた。
由紀子の発育も悪くなり、やせ細って来だした。
順平は、狂ったように掃除を続ける淳子と、
衰弱していく由紀子を見てはケラケラと笑った。
夜になれば、二人は獣のようなSEXをした。
ドラッグの服用は1錠から2錠、2錠から3錠へと次第に増えていった。
淳子の部屋でSEXをしても、由紀子は泣かなくなった。
泣く力もないほど衰弱しだしたのだ。
順平に跨り、淳子は一心不乱に腰をグラインドさせた。
「もっとよ!もっと下から突き上げなさいよ!」
「はあ・・・はあ・・・・こうかい?」
順平は白目をむきながら、淳子の要望に応えた。
しかしやがて「うううう・・・」と呻き声を発したかと思うと、
順平は動かなくなり、男性自身が一気に萎んだ。
「順平!なにしてんのよ!早く勃たせなさいよ!」
淳子の罵声にも応えず、
順平は目をカッと見開き、口から泡を吹いていた。
「順平?」
順平は呼吸さえしていなかった。
ドラッグの多乗摂取による心不全で命を落としたのだった。
「いやあああ~~っ!!」
淳子はパニックに陥った。
どうすればいいの?どうすればいいの?
その時、衰弱しきっている由紀子が
力を振り絞ったように泣き始めた。
『うるさい!うるさい!うるさい!!!』
淳子は、ふいに由紀子の大きな黒い瞳が恐ろしくなった。
「なによ、その目は!そう、お腹が減ったの!!
それならミルクをあげるわ!食べなさいよ!!」
そう言って、古くなったミルクの粉を由紀子の口へ流し込んだ。
「食べなさいよ!さあ、食べなさいよ!」
ミルクの粉をどんどん由紀子の口に流し込み、
顔中が粉だらけになった。
由紀子はすでに息絶えていた。
しかし、その黒い瞳が淳子をしっかりと見据えていた・・・
~エピローグ~
淳子は静かに目を覚ました・・・
白い天井、白い壁・・・
懺悔の思いで目から涙が溢れる。
「由紀子・・・」
愛する健太の忘れ形見をこの手で・・・・
淳子は病院の隔離病棟に収監されていた。
体は拘束衣で自由を奪われていた。
順平のように命を落とせばよかったのに・・・
この心の傷は一生消えることはないだろう。
カツ、カツ、カツ・・・
数人の靴音と、杖を着く音がドアに近づいてくる。
キィ~という金属音とともにドアが開く。
担当医が入室してきて話し始めた。
「若林さん、あなたの身元引受人が名乗り出てくれましたよ。
これからは全快を目指してがんばりましょうね。」
さあ、どうぞ。という担当医の声に促されて、
杖を着いた男が入室してきた。
男は「淳子、探したよ・・・」
そう言ってニヤリと笑った。
淳子は男の声を聞き、目を見開いて男を見た。
そこには、こめかみに傷跡を残した父が、
不気味な笑顔で立っていた・・・・
完
。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。
あとがき
「黒い瞳」いかがでしたでしょうか
やや猟奇的要素の含んだ作品となってしまいました
エロよりも幸せに縁遠い女の半生モノを思って書き始めたものの
アンハッピーな作品になってしまいました
とめどもない快楽の波に溺れた。
心で拒絶しても体が薬を求める。
やがて、SEXをするしないに関わらず、
日常生活においても薬がほしくなってきた。
薬を飲めば疲れが取れる。
いや、疲れが麻痺するのだ。
なんとすばらしい薬だろう。
「順平・・・あの薬、ほんとは媚薬なんかじゃないんでしょ?」
「へへへ・・・気付いたかい?
あれはいわゆるドラッグってやつだ。
あいつの虜になったらもう止められないぜ」
ドラッグ?麻薬なの?
そう問い詰めると、麻薬じゃないけど、
まあ似たようなもんだと順平がニヤニヤしながら答えた。
なんということだ!警官の妻だった自分がドラッグの中毒に・・・。
順平・・・ひどい!そんなものに私を溺れさすなんて!
もう薬は止めよう。
中毒反応はつらいかもしれないが、絶対に乗り越えなければ。
しかし、その決意は1日としてもたなかった・・・
欲しい!薬が欲しい!
薬!薬!薬!!!
「順平!薬!!薬をちょうだい!!」
「あれさあ、けっこう高いんだよねえ」
「いくらなの!いくらでもいい、欲しいのよ!」
やがて、生活費のほとんどが、ドラッグを購入する金額に化けた。
そして、由紀子の養育費にと
貯蓄しておいた健太と義父母の生命保険の返済金にまで
手をつけ始めるようになってしまった。
とにかく、ドラッグが欲しかった。
他のことは何も考えられなくなってきていた。
やがて、フロアに大量の蟻が這うようになった。
もちろんドラッグが見せる幻覚症状なのだが、
淳子にはそれがはっきりと見えるのだ。
蟻が蠢くのが気になり、1日中、掃除機をかける日もあった。
由紀子の育児も疎かになり始めた。
由紀子の発育も悪くなり、やせ細って来だした。
順平は、狂ったように掃除を続ける淳子と、
衰弱していく由紀子を見てはケラケラと笑った。
夜になれば、二人は獣のようなSEXをした。
ドラッグの服用は1錠から2錠、2錠から3錠へと次第に増えていった。
淳子の部屋でSEXをしても、由紀子は泣かなくなった。
泣く力もないほど衰弱しだしたのだ。
順平に跨り、淳子は一心不乱に腰をグラインドさせた。
「もっとよ!もっと下から突き上げなさいよ!」
「はあ・・・はあ・・・・こうかい?」
順平は白目をむきながら、淳子の要望に応えた。
しかしやがて「うううう・・・」と呻き声を発したかと思うと、
順平は動かなくなり、男性自身が一気に萎んだ。
「順平!なにしてんのよ!早く勃たせなさいよ!」
淳子の罵声にも応えず、
順平は目をカッと見開き、口から泡を吹いていた。
「順平?」
順平は呼吸さえしていなかった。
ドラッグの多乗摂取による心不全で命を落としたのだった。
「いやあああ~~っ!!」
淳子はパニックに陥った。
どうすればいいの?どうすればいいの?
その時、衰弱しきっている由紀子が
力を振り絞ったように泣き始めた。
『うるさい!うるさい!うるさい!!!』
淳子は、ふいに由紀子の大きな黒い瞳が恐ろしくなった。
「なによ、その目は!そう、お腹が減ったの!!
それならミルクをあげるわ!食べなさいよ!!」
そう言って、古くなったミルクの粉を由紀子の口へ流し込んだ。
「食べなさいよ!さあ、食べなさいよ!」
ミルクの粉をどんどん由紀子の口に流し込み、
顔中が粉だらけになった。
由紀子はすでに息絶えていた。
しかし、その黒い瞳が淳子をしっかりと見据えていた・・・
~エピローグ~
淳子は静かに目を覚ました・・・
白い天井、白い壁・・・
懺悔の思いで目から涙が溢れる。
「由紀子・・・」
愛する健太の忘れ形見をこの手で・・・・
淳子は病院の隔離病棟に収監されていた。
体は拘束衣で自由を奪われていた。
順平のように命を落とせばよかったのに・・・
この心の傷は一生消えることはないだろう。
カツ、カツ、カツ・・・
数人の靴音と、杖を着く音がドアに近づいてくる。
キィ~という金属音とともにドアが開く。
担当医が入室してきて話し始めた。
「若林さん、あなたの身元引受人が名乗り出てくれましたよ。
これからは全快を目指してがんばりましょうね。」
さあ、どうぞ。という担当医の声に促されて、
杖を着いた男が入室してきた。
男は「淳子、探したよ・・・」
そう言ってニヤリと笑った。
淳子は男の声を聞き、目を見開いて男を見た。
そこには、こめかみに傷跡を残した父が、
不気味な笑顔で立っていた・・・・
完
。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。
あとがき
「黒い瞳」いかがでしたでしょうか
やや猟奇的要素の含んだ作品となってしまいました
エロよりも幸せに縁遠い女の半生モノを思って書き始めたものの
アンハッピーな作品になってしまいました