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2014.10.23 (Thu)

キャンバスの華 最終話


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「あなた・・・? あなたったら・・・」
身重の千代が心配そうにソファから身体を起こして次郎に声をかけていた。

『はっ!』
次郎は千代の声に我に返った
「こらこら、モデルが動いてはダメじゃないか」

「そんなことを言ったって、あなたったらさっきから筆が全然動いてないんですもの。
そんなペースでは個展に間に合わなくなるわ
いえ、その前に赤子(ややこ)が産まれてこのお腹がぺったんこになってしまいますわ」
大きなお腹を愛しそうに擦りながら千代は微笑んだ。

次郎は個展に出展する最終作品の妊娠裸婦画を描いていた。
「そうだな、早く仕上げなきゃ・・・」
そう言いながら次郎は持っている絵筆を見つめた。
絵筆には英文字でHANAと刻印されていた。

『華・・・』
次郎は再び《あの日》に思いを巡らせた。

・・・・・・・・・・・・


華はなにか心配事でもあるかのように塞ぎこむようになった。
そして、意を決するかのように蘭方医の清庵のもとへ診察を受けにいった。
もちろん蘭方医を訪ねていくことは次郎には内緒にしておいた。

「これはこれは絵描きのお嬢さん。体調がすぐれないのかね?」
最近、若い男と暮らしてるそうじゃないか、ご懐妊の確認にでも来られたのかな
などと減らず口を語りながら、まあ、そこへお座りなさいと診察椅子に腰かけることを勧めた。

華は思いきって気にかかる事を医師に話した
「実は・・・乳房の奥に妙なしこりが・・・」

「ふむ、どれ、診察してしんぜよう」
医師は胸をだして診察ベッドに横たわるようにと指示した。

華の白い乳房を押したり、両の手で挟み込むようにして揉みながら
医師の表情がみるみるうちに強張りだした。
「こ、これは・・・」

陽気な清庵の表情が曇ったことで、
華は自分の予想が当たったのだと確信した
「先生・・・やはり岩なのですね?」
決して口にしたくない病名を医師に確認した。

「残念じゃが、言われるとおりこれは岩のモノです・・・・
だが、長崎のオランダ医師ならなんとかしてくれやもしれん」
紹介状を書くからすぐに長崎へ往きなさいと医師は勧めた

「なんとかなるというのは乳房を切り取るということなのでしょ?
そんなのは死ねと言われるより辛いです
それならば私は静かに死を待ちます」
まだ若い命を粗末にしてはいけないと諫められたが
華の決心は固かった。


外出から戻った華は表情から暗さが消え、いつにもまして元気だった。
そしていつも以上に厳しく次郎に絵の向上を促し始めた。

だが元気だったのは数日で
やがて華は食も細くなり、寝床に伏せる日が多くなってきた。
華が伏せてしまっている以上、次郎は必死に働いた
初めのうちは壁画の出来が悪いと言われ賃金がもらえない時もあったが
数ヶ月後には値切られながらもなんとか賃金をいただき
生計をたてれるまでになった。
だが、そのころには華の血色が非常に悪く、
透き通るような白い肌は黄疸のせいで黄色くくすみ始めていた。



その日は朝から華の呼吸が荒く、かなり辛そうだった。
次郎は大慌ててで蘭方医を往診させた。

「養生しか打つ手はないかと・・・」
診察を終えた医師は静かにそう言った。
それは、もはや打つ手なしという宣告だった・・・・

「会わせてあげたい人がいたら今日中に・・・」
今夜がヤマだと暗に医師はそう告げた

「そ、そんな!!先生!なんとかしてください!!!
血がいるのなら俺の血を全部抜いても構いませんから!!」
これにて失礼するよと言う医師の袖を握り締めて次郎は必死に引き止めた。
「儂とて、なんとかしてあげたい・・・
だが・・・もうどうすることもできんのじゃ・・・・」
必死に鷲掴む次郎の手をそっと引き剥がし残念そうに医師は去っていった。

やがて日が暮れ、丑三つ時になろうかという頃に
華の意識が混濁し始めた。
うわ言のようにボソボソ話し始めた華であったが
フイにはっきりと次郎の名を呼んだ
「次郎さん!!次郎さん・・・どこ?」

「華!!俺はここにいます!ずっと華の手を握ってますよ!!」

「寒いの・・・すごく寒いの・・・抱いて・・・抱きしめて・・・」
華の意識が薄れていくのを次郎は感じ取った

「抱きしめているよ!華、ほらわかるかい!
俺はこんなに強く華を抱きしめているよ!!」
華の身体を起こして、次郎は強く抱きしめた

「ああ・・・嬉しい・・・こうやってあなたの腕の中で旅立てる・・・
次郎さん・・・」
華の呼吸が荒く苦しそうだった。
「わかったから、もう喋んなくていいから!
俺はずっとここにこうして華のそばにいるから」
涙が溢れて止まらなかった。

やがて華の呼吸が弱々しくなってゆく
「逝くな!!華!俺を置いて逝かないでくれ!!」

「じ・・ろ・・さ・・・・・ん・・・・
あな・・た・・には・・・・待っ・・てる・・・人が・・・・いる・・・
か・・え・・・って・・・・あ・・・・げ・・・な・・・・きゃ・・・・」
少しずつ華の言葉が聞き取れなってゆく・・・

「華~~~!!!」

微かな声で華が最後に言った言葉・・・

「あ・・い・・・し・・・て・・る・・・」
その言葉を残して華は逝った



次郎は華への思いを込めて
死化粧を施した
華というキャンバスに・・・・







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09:01  |  キャンバスの華  |  Trackback(0)  |  Comment(10)
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