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2016.02.29 (Mon)

黒い瞳 6

翌朝、母の機嫌がすこぶる悪かった。

八神が帰った後は、さらに機嫌が悪くなり、
お腹が痛いと言って寝床に臥せてしまった。

八神の、お股の角(つの)はひょっとしたら、
お母ちゃんの機嫌をよくする注射なのかもしれないと淳子は思った。

昨夜は、襖がカタカタ揺れなかったからお注射をしなかったんだ。
だから、お母ちゃんの機嫌が悪いんだ。
そう思うと辻褄が合うように思えた。



次の土曜日の夜も、八神はやってきた。

夕食を食べていると、ガラス戸をガンガンと激しく鳴らされた。
どうやら、来客のようだ。
母が「はい?」と言ってガラス戸を開けると、
ガラッとさらに激しくガラス戸を開け、
恐そうな二人の男がズカズカと入ってきた。

呆気にとられる母を尻目に、黒い手帳をかざし、八神に向かって
「警察だ!八島昭雄だな?結婚詐欺の容疑で署まで一緒に来てもらうぞ」と叫んだ。
ダウンロード (1)

八神(矢島)は、くつろいでいたので、
逃げるタイミングをすっかりなくしてしまったようだ。
二人組みの刑事のうち年配の方が、
逮捕状を八神(矢島)の目の前に突きつけた後、銀色の手錠を静かにかけた。

カチャリ、その音に反応したかのように、母が飛び込んできて叫んだ。
「何をおっしゃっているのかわかりません!
この人は八神明人っていうんです。その矢島なんとかっていう人じゃありません!」

若い方の刑事が母に諭すように話しかける。
「八神明人は詐欺を図るときのこいつの偽名なんですよ」

「そんな・・・そんなのなにかの間違いです!」
半狂乱で暴れる母の体を若い刑事がやさしく抱きしめた。

「こいつはね、後家さんや、バツイチの女狙いの結婚詐欺の常習犯なんですよ。
被害届が、もうすでに8件以上もでてるんです」
脱力している八神(矢島)を無理やり立ち上がらせながら、年輩の刑事が説明してくれた。

母は愕然としながらも、まだ心のどこかで信じられない気持ちでいた。

「どうして、ここにいるのがわかったんだ」
観念したかのように八神(矢島)は口を開いた。

「毎週土曜日に、この辺りをうろついているって言うタレコミがあったのさ」

「ふん、俺としたことがドジ踏んじまったなあ」

あんた、本当なの?これまでの事は全部ウソだったの?と、
母は半狂乱で叫んだ。

「ちなみに、こいつに金品を渡してないですか?」という刑事の質問に、
わずかな蓄えの全額を渡してしまったと蒼白な顔をして母は答えた。

「たいした額じゃねえよ。この貧乏女がぁ!」
ペッと唾を畳の上に吐きながら矢島は吼えた。

返金の可能性は期待しない方が・・・などと
語尾をあいまいにしながら刑事は言った。

母は力が抜けたように、ペタッと腰から崩れ落ちた。

若い刑事が矢島を引き連れて言った後、
矢島の手口というのは、尻が軽そうな女に言葉巧みに言い寄り、
ご自慢のマラで女を虜にさせ、
金を頂いた後トンズラするというものだと年配の刑事が話してくれた。

「金を取ってからも、こうして訪ねてくるとは、
よほど、あんたのアッチの方の具合がよかったんでしょうなあ」と、
年配の刑事が母の胸から股にかけて値踏みするような目つきで嘗め回した。

帰り際に、
「あんたもいい思いをしたようだし、高い授業料だと思ってあきらめるんですな」と
被害者をなじるような台詞を残して刑事は帰っていった。


しばらく母は呆然としていたが、ハッと我に帰ると、
「塩!塩!」と言いながら台所へ走った。

台所から母は、塩の壺を小脇に抱えて出てきた。
そして、玄関を出るや否や、塩をあたり一面に撒き散らかした。

「ちくしょう!バカにしやがって!ちくしょう!ちくしょう!」
母は大粒の涙を流しながら、何度も何度も塩を撒いた。
love_to_kill_04_40.jpg

近所の老人たちが何事かと遠目に眺めているのに気付くと
「見せ物じゃないんだよ!とっとと消えな!」と毒づいた。

「刑事も刑事だよ!何様のつもりだい!。助平な目つきで私を見やがって!」

塩をすべて撒き終えると、ガラス戸を閉め、
家の奥にひっこんで布団をかぶり、涙が枯れるほど泣いた。

淳子は、為すすべもなく、
これらの一部始終を食卓の前で、おとなしく座って傍観していた。

母を追って淳子が布団に入っていくと、母は力強く抱きしめてくれた。
ごめんね、ごめんね、お母ちゃんがバカだったね。
淳子にランドセルや机を買ってあげようと貯めておいたお金、
全部取られちゃったよ・・・そう言ってまた、おんおんと泣いた。

やがて涙も枯れ果てたのか、母の嗚咽が止んだ。
そして、低く唸るような声で
「こうなったら、男を食いもんにして生きてやるよ」と独り言を呟いた。

淳子は母のそうした恐ろしい声を始めて聞いた。
夜の暗闇のせいで、母の形相はわからなかったが、
おそらく3歳のあの夜のような夜叉の形相であったにちがいない。

布団に包まれ、母に抱かれ、
暖かいはずなのに、なぜか淳子は体がブルブルと震えた。

23:10  |  黒い瞳  |  Trackback(0)  |  Comment(2)

Comment

おやおや(^^;
こんな展開に・・・
コレじゃぁ、淳子ちゃんは真っ直ぐ成長せぇへんって(>_<")

でも、コレがキッカケで、のし上がって行くとか?
思春期には、乱れるやろなぁ~(-。-;)タラー
影依 |  2016.02.29(月) 23:27 | URL |  【編集】

影依さん コメントありがとうございます

> こんな展開に・・・

はいな♪
予想外でしたか ( ´艸`)
もっと予想外になりますからね~

人生と小説は予想外だから面白いんですよ♪
でも負の方向への軌道修正はいただけませんけどね www
ほーくん |  2016.03.01(火) 20:56 | URL |  【編集】

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