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2019.07.09 (Tue)

さよならDJ

夏美はラジオブースの中で緊張していた…
膝が小刻みに震える。
背中にゾクッとした寒気が走る。

だが表情はスマイル全快だった。
ラジオブースの向こうには
防音ガラス越しに心配そうに見つめるマネージャーの樹(いつき)がいた。
その隣にはヘッドホンをつけた男がこちらに向かって片手を広げて押し出した。

『本番 5秒前』
夏美のヘッドホンにその男ディレクターの白川のやさしい声が響く。

「ごくっ…」
ちいさな生唾を飲む自分の喉の音さえラジオマイクが拾ろって
夏美のヘッドホンから恥ずかしい音をたてた。
(わあ~…感度がいいんだわ…
お腹の虫が鳴ってもきっと拾っちゃうわね)
夏美の緊張はさらに増した。

『4.3.2.…』指を1本ずつ折り曲げながら
白川がカウントダウンを進める…
そして最後の1本は声を出さずに折り曲げると、
器用に手首をクルッと回転させ
夏美にむかって「どうぞ」と言わんばかりに指差した。


軽快な音楽がヘッドホンから流れ、すこしずつフェードアウトしてゆく。
『さあ~夏美ちゃん、行ってみようかあ~』
ヘッドホンから白川の指示が飛ぶ。


「みなさ~~~ん、こんばんは~~~」
うん、大丈夫。元気いっぱいのアニメ声だわ。
夏美は自分でも驚くほど、本番になって落ち着き始めたのを感じた。
ブースの向こうでもマネージャーの樹がホッとした表情をした。

これが録音番組ならみんな緊張もしなかっただろうが、
本日よりスタートした[夏美の春夏秋冬]は深夜の生放送だったのだ。
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「はい、今夜からスタートする[夏美の春夏秋冬]がついに始まりました~~~」
上々の滑り出し…
だが、ブースの向こうではディレクターの白川が仏頂面をしていた。

「え~~~と、ですねえ。
今日からスタートという情報を知ったリスナーの方から
初日だというのにこんなにたくさんのお葉書をいただいちゃいました~~~」
そう言って、メモ帳をマイクの前で振り、バサバサという音を出した。
葉書?とんでもない。そんなもの1枚も来ちゃいない。
ただ放送作家が書いたシナリオが
虚しく夏美の座っているデスクの前に置かれているだけだった。

「はい。さっそくいただいた葉書の中から夏美への相談を読ませていただき、
この夏美が解決していきたいと思いま~~~す。
これからの30分、仲良くお付き合いくださいね~~~
この番組は○○○の提供でお送りしま~す」

白川が機械を操作し、BGMのボリュームをあげた。
ヘッドホンからはスポンサーの軽快な音楽とナレーションが流れ始める。

夏美はテーブルのマイクスイッチをOFFにした。
そしておもいっきりフゥ~~~ッと息を吐き、肩の力を抜いた。
ブースの向こうからは白川が微笑みを投げかけてくれた。
OKなのね?…この調子で進めていけばいいのね?
夏美も最高の笑顔を送り返した。

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。。。。。。。。。。。。。。。。

生放送を終え、帰宅して部屋着に着替えていると携帯の着信音が鳴り響いた。

ディスプレイ画面にはSHIRAKAWAと出ていた。
『あ、白川さんだ』

受話ボタンを押し「はい。夏美です」と元気に応答した。

「もしもし?俺だけど…今、大丈夫?ごめんね、こんな時間に…」

「ううん。全然大丈夫。
今、ファンレターに目を通していたところなの。枚数が多くて大変で…」
嘘、言っちゃった…ファンレターなんて数枚しかなかった。
「ねえ、白川さんは、まだお仕事ですか?」

『今、打ち合わせが終わって休憩中なんだよ』

「そっか…お疲れ様…
ねえ、白川さん…なかなか2人で会うことができなくてゴメンナサイ」
夏美が発したその声は、いつものアニメ声じゃなく、妙に艶っぽかった。

携帯の中から白川のやさしい声が返ってくる
『いいんだよ…夏美。
僕はときどきこうして君とお話ができるだけで充分なんだ。
今は夏美にとって大事な時期なんだし、
恋人発覚なんてシャレにもなんないよ。
それに、これからはラジオ番組で君に会えるんだし…』

白川の思いやりの言葉に
夏美の股間の谷間からはジュワ~っと潤みが湧き始めた。

「白川さん…私、こうして話してると、仕事なんてどうでもよくなっちゃう…
白川さんとずっと一緒にいたい…」

『なにバカなこと言ってんだよ。
いつかそういう日が来ると信じて、今はがんばるんだ。…いいね?』
大事な白川さんの期待に応えるためにもがんばろう…
夏美は、そう決心した。

『なあ、今度の休みはいつだい?
わかったらおしえてよね、俺も有給を取るからドライブでもしよう』

ドライブか~…楽しいだろうなあ…
温泉旅行もしたいなあ…
旅館に泊まって一緒にお風呂に入って…
それからおもいっきりエッチがしたい…
「ねえ…エッチがしたい…」

『僕もだよ…』
夏美の裸体を思い浮かべてくれたのか、ゴクリと生唾を飲む音が聞こえた。
もっと白川さんと話したかったが、
電話の向こう側で『お~い、白川、そろそろ始めようか』というダミ声が漏れ聞こえた。
『悪い…休憩時間が終わりだ…また連絡する』
そう言って一方的に通話が切られた。


エッチしたい…エッチしたい…
20歳前の健全な女体は男の体を欲していた。

白川とはラジオ局の楽屋でこっそりキスもしたし、
胸を揉まれることはあった。
だが二人の関係もそこまでで、互いの裸体さえまだ知らなかった。

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。。。。。。。。。。。。。。

翌日も深夜の生放送が始まった。

ただ、昨夜と違うのは、
白川さんの後ろにするどい眼光で夏美を見つめる1人の男性がいた。
男はマネージャーの樹(いつき)と親しく話していた。

「いやあ~、樹ちゃん。おたくの夏美…あれ、いい女だねえ~」
そう聞かれた樹は媚を売るように
「はい。うちでも一押しの女なんですよ」と答えた。
「いやあ~、いい。実にいい」
どうやら男は夏美を気に入った様子だった。
「これもみんな、八木さんのお陰ですよ」
そう言って樹は深々とおじぎをした。

「それはそうと、八木さん…例のCDデビューの件、なんとかお願いしますよ~」
頭をペコペコさせ、八木という男に哀願した。

八木は業界でも名の知れた敏腕プロデューサーなのだった。

「そうだなあ…考えてあげてもいいけど…」
そう言って、ただし条件があると前置きして樹の耳元で何やら小声で話した。
その内容を聞いて、樹の表情が曇った…

。。。。。。。。。。

放送が終わって自宅へ送ってもらうときに樹が、
「夏美ちゃん…今度、CDデビューできるかもしれないよ」と言った。

「ほんとですか?」
CDデビューは夏美の念願だった。
そんな嬉しいニュースを伝えているというのに、樹の表情は暗かった。

「夏美ちゃん…CDデビューの為に、
どんなに嫌なことがあっても乗り切るんだよ。いいね?」
と、なにか含みのある言い方で話した。

。。。。。。。。。

翌日も放送は快調だった。
CMの合間の白川とのアイコンタクトも幸せだった。
CDデビューすれば更に仕事が増えて忙しくなるだろう…
暇な時間など無くなり、彼と電話で話せない日も多くなるかもしれなかった。
彼と幸せな時間が欲しい…でも、夢は追いかけたい…
夏美の心は揺れ動いていた。

『あれ?夏美ちゃん、疲れてきたのかな?表情に影があるじゃないか…』
調整室でガラス越しに夏美の表情が暗くなったのを白川は感じていた。

と、その時だった。
プロデューサーの八木が若手のディレクターを連れて部屋に入ってきた。
「白川ちゃん、お疲れ~~。
いつも深夜まで大変だねえ。あ、彼は新人の相川ちゃん」
そう言って若手ディレクターの相川を紹介した。
相川なら白川も知っていた。
八木にべったりくっついている腰ギンチャクのような男だった。

「白川ちゃ~ん。今夜は相川ちゃんにこの後をやらせてあげてよ。
ほら、この仕事ってさあ何事も経験がものを言う世界じゃない?
彼に場数を踏ませてあげたいんだよねえ~。
白川ちゃんも、たまには早く帰りたいでしょ?
ね、悪い事は言わないからさあ、彼とチェンジしてよね」
口調は穏やかなものの、目には有無を言わせぬ鋭い眼光が白川を射抜いた。
元より、彼に逆らえるはずもなく、
「わかりました。お願いします」と席を相川に譲った。

ラジオブースの中から、白川が席を立って退室するのが見えた。
夏美は、なにか用事でも出来たのだろうかと訝しがった。
彼の代わりに席に着いたのはインテリ風の痩せた小柄な男だった。
その彼から『あと2分でCM行きま~す』とヘッドホンから指示が飛んできた。

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テーマ : 18禁・官能小説 - ジャンル : アダルト

10:30  |  さよならDJ  |  Trackback(0)  |  Comment(4)
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