2019.01.23 (Wed)
ピンクの扉 第二章
空港を一歩出た途端、あまりの寒さに「ぶるっ」と体が震えた。
「さすがに北海道ねえ~」
機内で主人を思い、密かに指遊びして濡れてしまった股間が急速に冷たくなっていく。
『いやん…冷た~い、風邪引いちゃうわ』
上手い具合に札幌行きの高速バスが出発するところだったので桃子は慌てて飛び乗った。
車内は暖房がよく効いていて快適だった。
とりあえず札幌に着いたらタクシーに乗ればいいかしら…
スマホのアドレスアプリを起動させて
単身赴任初日に送られてきた主人の居住先の住所をしっかりと頭に叩き込んだ。
「ひとり旅ですか?」
スマホを閉じるのを見計らったように
隣に座っていた男が気さくに声をかけてきた。
「いえ…主人が単身赴任でこちらに来てるので、ひさしぶりに会いにいくところなんです」
「そうでしたか~、いや、あなたのような素敵な女性を妻にした旦那さんが羨ましいですね」
「まあ、お上手なんだから~」と言いながらも、
素敵な女性と呼ばれて桃子はまんざらでもなかった。
「ご主人がこちらにいるのなら出る幕はありませんね」
「どういう意味ですか?」
「あ、すいません。別に他意はないんですが…
実は僕、カメラが趣味でして、気ままに風景を撮影するひとり旅なんですよ
で、もしあなたが一人旅ならこうして隣同士で座ったのも何かの縁ですし
よければ一緒に観光地巡りでもと思ったものですから…」
「まあ、それは残念でした うふふ」
このように旅先での出会いもまた楽しいものだと桃子は感じた。
その後も他愛ない会話を楽しんだ。
おかげで千歳から札幌までの距離がとても短く思えた。
札幌駅からタクシーに乗り換えて主人の単身赴任社宅の住所を告げると
「すぐ近くですよ~、歩いても行けますけど構いませんか?」と
反対に恐縮されてしまった。
都会では1メーターほどの短距離だと不機嫌になってしまうドライバーもいるのだが
地方の温かさを感じてしまいました。
後部座席に体を預けてさきほどの高速バスで隣に座った男からもらった名刺をぼんやりと眺めた。
『長塚清四郎』
まあ、やだ…
すごい古風なお名前だこと…
それに持っていたカメラ…すごく高価そうだったわ
きっと耳に心地いいシャッター音がするんだろうなあ…
風景写真が趣味とか言ってたけど、ヌード写真も撮影するのかしら
一緒に観光地をまわって人目を忍んでヌードでも撮ってもらったら楽しかったろうなあ
そんな妄想を打ち消すように
「到着しましたよ」とドライバーが現実に戻してくれました。
社宅は想像していた通り同じ扉がずらりと並んでいて、
見ようによれば監獄のような感じだった。
そんな扉を一つずつ確認していく。
『304号室…』
あ、あったわ!
いよいよ主人と感動の再会だわ!
サプライズのために主人には内緒で来ちゃったからきっと驚くでしょうね~
震える指で呼び鈴のボタンを押すと
「は~い♪」とドアの内側から可憐な女性の声がした。
『え?』
部屋を間違えちゃった?
しかしアドレス帳を何度見直してもこの部屋に間違いなかった。
「はい?どちら様でしょうか?」
戸惑っているうちにドアが開き、
中から可憐な声同様にチャーミングな女性が顔を覗かした。
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