2018.05.31 (Thu)
揉ませていただきます 9
「一体どういうことなの?説明して頂戴」
女将の険しい目が健斗を射貫いた。
男の部屋を一目散で飛び出したのはいいが、
ズボンとパンツを剥ぎ取られていたので健斗は下半身丸出しの状態だった。
そこに出くわしたのが女将だった。
「運よく別のお客様の所へバスタオルの替えを持って行くところだったから慌ててあなたの下半身を包み隠したけど、もし、私が何も持っていなかったら…ううん、それ以上に下半身丸出しのあなたが他のお客様に見られたらどうなっていたことか…」
本当に女将がバスタオルを持っていたのは不幸中の幸いだった。
健斗は体を小さく丸めながら客の男との経緯を話し始めた。
「まあ!そんなことが…」
若い仲居が泥酔客に尻を触られたり、口説かれたりしたときの対処法は心得ていたが、
まさか男性従業員が男の客に言い寄られるなんて初めての事なので、
健斗になんて言ってあげればいいのか困った。
「なんにせよ、下半身丸出しで廊下に飛び出したのはまずかったわね…」
そうこうしているうちに当の男性客から苦情の電話がカウンターに入った。
「女将さん、マッサージを依頼されたお客様からすごい剣幕で苦情が来てます…」
どうしましょ?と額から脂汗を流しながら困り果てた顔で番頭さんが女将さんに報告にやって来た。
「私が対処します」
女将は意を決すると苦情がでた男性客の部屋へ出向いた。
「とんでもない目に合いましたな」
陰で事の成り行きを聴いていた番頭が同情してくれた。
「あのようなとき、僕はどうしたらよかったんでしょうか?」
「そうですなあ…私なら、愛する旅館の看板を汚さないためにも、
黙って尻の穴ぐらい男に差し出しますけどね」
「えっ?」
「まあ、それは冗談ですが、それぐらいの覚悟がないと客商売など出来ないと言うことですわ」
冗談だと言いながら、番頭の目は客が望むなら黙って抱かれろと言っていた。
数分後、女将が帰ってきた。
「上手く治まりましたか?」
番頭がやきもきしながら問うと
「宿泊費をロハにすると言ったら鬼の形相がたちまち仏の顔になったわ。
番頭さん、あの客をブラックリストに載せておいてね」
女将は、あの男にはもう二度とこの旅館の敷居は跨がせないとかなりのご立腹だった。
「ご迷惑おかけしました」
「いいの、いいの。あの客の宿泊費はあなたのお給料から引いておくから」
冗談なのか本気なのか、女将はそう言うとにっこり笑った。
そして「後で私の休憩室へいらっしゃい」と真顔に戻って告げた。
健斗は女将さんが取り戻してくれた下着とズボンを穿き、
身支度を整えて女将の休憩室へ出向いた。
おそらくお灸をすえられるに違いない。
先ほどは近くに番頭さんがいたから穏便に澄ませてくれたけど、
二人きりになればかなりの雷を覚悟せねばなるまい。
「失礼します」
ドアをノックし、なるべく失意に打ちひしがれている暗い声を発した。
「入って…」
頭ごなしのお入りなさいでもなく、甘い声で返事が返ってきたので健斗は調子が狂った。
部屋は消灯されていて、ベッド脇にかろうじて人影を見つけることが出来た。
「ドアを締めて鍵を掛けて頂戴ね」
指示どおりにドアを締めると部屋は真っ暗闇となった。
「こっちへいらっしゃい」
女将がベッド脇のスタンドを灯してくれたので仄かな灯りが点灯した。
その仄かな灯りに浮かび上がった女将さんのシルエットは一糸まとわぬ全裸であった。
呆然と立ち尽くす健斗の元へ女将は歩み寄り、
健斗の手を取って「来て…」とベッドに誘った。
「廊下であなたの下半身丸出しを見てから…欲しくなっちゃた…」
「てっきり僕は今夜の事でお叱りを受けるものだとばかり…」
「バカね、客商売をしていたらあんなトラブルは日常茶飯事よ。
でもね、やっぱりストレスは溜まるわ…そして私のストレス発散がセックスなの…」
早くに逝去した先代夫婦の後を継ぎ、
若くして女将となり経営してきたので婚期を逃した彼女にとって唯一の楽しみは
若い従業員を捉まえてこの別室でセックスする事だった。
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