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2016.03.08 (Tue)

黒い瞳 10

父は静かに語り始めた。
「確かに不倫をしてしまったのは、私の不徳のいたすところだ。
だが、あなたの母も清廉潔白な女ではなかったのだ。
あいつには、私のところへ嫁いで来る前に、交際をしていた男がおった。
私は男に金を握らせ、身を引かせた。
しかし、私の目を盗み、二人は通じあっておったのだ。
私の不倫生活が3年になろうとしたときに、
あなたの母は私に不倫を清算してほしいと懇願した。
私は不倫相手に恋愛感情などもっていなかった。
だが、若かった私は不倫をひとつのステータスと考えていたのだ・・・・」

そこまでを一気に語り、父は一口、茶をすすり喉を潤した。

「不倫の清算は、私が来るべきときに私自身の手で幕を下ろそうと考えていたのだ。
あいつに促され精算するなど、もってのほかだと思ってしまった。
あいつは、煮え切らない私の態度をなじった。
私は、ついカッとなり、あいつに手をあげてしまったのだ。
感情が昂ぶってしまった私は、言ってはならぬ言葉をあいつに投げてしまったのだ」
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当時の事を思い出してるのか、父の手は微かに震えていた。

「そういう、お前はどうなのだ。私が何も知らないとでも思っているのかと・・・
この、売女(ばいた)となじってしまった。
あいつは狼狽し、喚きたてた。その態度をみて、
私はまだあいつと男が通じ合っているのだと確信した。
あいつは、私と別れて家を出て行くと言った。
男のところへ行くのは明らかだった。
あいつが家をでたあと、その筋の者に手を回し、男を懲らしめてくれと依頼した。
あなたの話を聞く限り、どうやら男はあいつの前から姿を消したようだな・・・」

ふふふ、と父は静かに笑った。

「私のことを、身勝手な男だと思っておるだろな。
度量の小さな男だと・・・
本質は些細なことではないのだが・・・」

それは今はまだ、話すべきではないだろうと話を結んだ。

「それはそうと、あなたはこれからどうするのだね。」

その相談にきたのです。まだ私を娘と思っているのなら、
なんらかの援助をお願いしたいのです。
そう話そうとする前に父が口を開いた。

「よければ、この家で暮らさないか?
私はごらんのとおり気ままな一人暮らしだ。
あなたも私以外に身寄りもないのだし・・・
そうしなさい。ここで暮らしなさい」

父娘として、もう一度やり直そうと言う父の言葉に甘え、
淳子は父と暮らし始めることにしたのだった。



父は淳子によくしてくれた。
流行の服を買い与え、お茶やお花といった習い事もさせてくれた。
二人のわだかまりも消え、穏やかな日々が流れていった。


ある夜、淳子は入浴中の父に声をかけた。
「お父さん、もしよければ、お背中お流ししましょうか?」
淳子なりに父への感謝の気持ちから、でた言葉であった。

「えっ?そりゃあ、嬉しいなあ。」
淳子は急いでTシャツと短パンに着替え、
浴室に入り、父の背中を流してあげた。

「こりゃあ、気持ちいい。至り尽くせりだな」
父の言葉に嬉しくなった淳子は
「お父さん、お風呂からあがったら、肩と腰を揉んであげる」と言ってあげた。

「ほんとうかい?こりゃあ淳子にご褒美あげないと罰があたるかな?」
そういって父は豪快に笑った。

「淳子、一生懸命洗ってくれて汗をかいたろう。
服を脱いで一緒に風呂に入りなさい」

「えっ?それはちょっと・・・」

「なにを恥ずかしがってるんだね、親子じゃないか。さあ、早く」
父は背を向け湯船に浸かった。

それじゃあ、お言葉に甘えてと淳子は服を脱ぎ、湯船に入った
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恥ずかしいからこっちを見ないでね。
そう言って、背中合わせに湯船に浸かっていると、
父の大きな背中に安心感を感じた。

「これがほんとの父娘水入らずだな。」
そういって、はははと再び豪快に笑った。

二人は風呂からあがり、居間でくつろいだ。


「淳子、ほんとうにマッサージをしてくれるのかい?」
水割りを飲みながら、父が尋ねた。

「ええ、あとで寝室で揉んであげるわ。」

「そうかい?そりゃあ楽しみだ。じゃあ、寝室で待ってるからね。」
上機嫌で鼻歌まじりで父は寝室へ消えた。

そう言って、父は寝室へと消えていった。
17:08  |  黒い瞳  |  Trackback(0)  |  Comment(2)
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