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2016.01.10 (Sun)

business trip 1

「宮間君、今日の企業さん、どう思う?」
駅のコインロッカーに預けておいたキャリアバッグを取り出しながら
桧山佳祐は部下の宮間藍子に尋ねた。

「どうでしょうか・・・こちらのお話は真剣に聞いていただけましたが
今ひとつ乗り気ではなかったような・・・」
「君もそう感じたかね・・・厳しいものがあるよね」
桧山は意見が一致したことで少々気をよくしながら
「はい、君のバッグ」と取り出したキャリアバッグを藍子に手渡した。

二人は某企業の営業部である。
新規開拓のため、とある街へ出張を命じられてきたという訳である。
成果が上がりそうにない出張に二人の足取りも自然と足が重くなる・・・

唯一の楽しみは今夜の宿か・・・
総務部の木下が手配してくれた宿はビジネスホテルではなく
温泉旅館だと教えてくれた。
『厳しい出張だと会社もわかってくれたのだろうか・・・』
しっかり鋭気を養って、明日、もう一度アタックだ!
いい宿に宿泊させてもらって成果なしでしたでは
会社に申し訳がたたない。

「足、疲れたろう?」
ヒールの靴で散々歩き回ったのだ。
きっと疲れているに違いなかった。
「大丈夫です。少しきつかったですけど、
温泉に浸かれば疲れも吹っ飛ぶと思います」
藍子も温泉旅館ということで楽しみにしているようだった。

「宿に着いたら明日のためにミーティングをやろう
しっかりと明日の戦略を練って、
準備を整えたら温泉で一風呂浴びよう。
ONとOFFの切り替えも大事だしな」
「はい」

彼女にしてみれば、今回が初出張だ。
かなり緊張しているようだが、よくがんばっている。
まだまだ新人の域を脱していないが、
彼女は営業職に向いている。
売り込みアピールの切り口も斬新だ。
今回の出張が決まった時、
桧山は真っ先にパートナーを彼女にしようと決めた。

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グーグルマップを頼りに、
二人は今夜の宿泊先である旅館にたどり着いた。
想像していた以上に古めかしい旅館だった。
まあ、こんな旅館もわびさびがあって風情があるってもんだ。
とにかく二人は疲れていた。
早く靴を脱いで畳の上でゴロンと横になりたかった。

「すいません」玄関で声をかけると
「はあ~い」という間延びした声が返ってきて仲居さんが現れた。

「すいません、予約しておいた○○会社の者ですが」
「はいはい、承っております。桧山様でございますね
ようこそお越しくださいました」
では、宿帳に記帳をお願いいたしますと宿泊カードを差し出した。
桧山がサインして藍子にペンを渡した。
カードをもう一枚お願いしますと告げた藍子に
仲居さんは「奥様は連名で同じカードにお願いいたします」と言った。
奥様?困惑した藍子に代わって桧山が
「私達は上司と部下なんですよ」と告げると、
仲居さんは
「あら、いやだ。桧山佳祐さまと桧山藍子さまではないのですか?」と驚いた。
どうやら宮間を桧山と聞き間違え、
夫婦だと思って予約を受けたようだ。
「どうしましょ、
ご夫婦だと思って一部屋しかご用意しておりませんわ」と恐縮した。

それは困る、二部屋をお願いしますと申し出ると
「あいにく中国からの団体客で満室でございまして」と言われた。
どうする?と藍子に伺いをたてると
「私、同じ部屋でも構いませんよ」と特に動じる様子は見せなかった。

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