2ntブログ
12月≪ 12345678910111213141516171819202122232425262728293031≫02月

2016.01.03 (Sun)

こちら百貨店 外商部 1

困った・・・・
ほんとに困った・・・・

朝比奈裕二は困り果てていた。
彼は徳井百貨店に入社してまもなく30年になろうかという
古参の百貨店員だった。

某大学を卒業してすぐに徳井百貨店に入社した。
当初は婦人服売り場の店頭マンとしての採用だったが、
そのルックスの良さ、もの腰のやわらかさ、機転の利く頭の回転の良さを買われて
入社2年ほどで外商部へ配置転換された。

百貨店の経営が成り立っているのは、
外商部の活躍によるところが大きいといわれている。
顧客は地域の大地主、国会議員、大物俳優、大手会社の社長や会長・・・
とにかくお金持ちといわれる方々である。

しかし、それら大口の顧客は先輩社員がすべて抑えていて
朝比奈のような途中参入のメンバーは大口顧客からの紹介者などであり、
その方たちは大口顧客の方々と比較して1ランクも2ランクも下だった。

時代は移り変わり、
高額な買い物をしてくれる顧客以外は外商から外して専用ネット通販で
賄おうという上層部の考えが表立ってきた。
それは今のままの買い物金額では朝比奈の顧客はいなくなり、
朝比奈は外商部をリストラされるというわけだ。
外商部以外のポストを用意すると会社は言ってくれているが
自分としては外商が天職だと思い込んできただけに
ショックは大きかった。

『ハッ!!いかん、いかん!
こんな暗い顔でお客様のお宅を訪問しては失礼だ』
顧客の一人である西木あかねのインターフォンを押す前に
朝比奈はとびっきりの笑顔を作った。

「こんにちは徳井百貨店の朝比奈でございます」
『あら?朝比奈さん・・・今日は?いったいなにかしら?』
インターフォンの声は怪訝に満ちていた。
自宅訪問日以外に訪ねてきたのだから仕方ないことだ。

「大事なお話がございまして・・・」
語尾を濁らすうちに玄関のドアが開いた。
P1080888.jpg

「急に来るんだもん、びっくりするじゃない」
急な訪問にも関わらず、西木あかねは屈託のない笑顔で朝比奈を迎え入れた。

玄関でかしこまってると
「ほら、何してんの?あがってよぉ~、今、お茶を淹れるからね」
いつものように暖かく迎え入れられた
外商部員とお得意様とはかなり親密な関係だ。
家族同様といってもよいだろう。
そういう関係を築けなければならないのだ。
『あなたがお勧めするのなら買わせていただくわ』
お客様にそう言ってもらえてこその外商部員なのである。
その関係を築くために、誕生日には自腹でプレゼントを贈り、
家具の模様替えなどは自ら応援を買って出たりもする。

西木あかねにしても、
そういった親身になってくれる朝比奈に好感をもっていた
それは外商部と顧客という垣根を越えて
いつしかほのかな恋慕に近くなっていた。

『買って欲しいのなら、私を抱きさない』
何度、そう言ってみたかったか・・・・
いや、冗談ではなく多少の高額商品であっても、
朝比奈に抱かれるのなら少し無理をしてでも買ってやろうと思っていた

e14051516s.jpg

ポチしてね





13:24  |  こちら百貨店 外商部  |  Trackback(0)  |  Comment(14)
 | HOME |